美容にいいだけじゃない!「アスタキサンチン」の隠れた威力

こんにちは。

突然ですが「アスタキサンチン」ってご存知ですか?

女性なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

化粧品や美容ドリンクに含まれていて、「お肌にいい」というイメージが強いですよね。今日はその「アスタキサンチン」を少し掘り下げてみたいと思います。

そもそもアスタキサンチンとは何なのでしょうか?

蟹やエビの甲羅、鮭の身に含まれる天然色素、それが「アスタキサンチン」です。どれも赤色をしていますよね。この赤色、アスタキサンチンの赤色なのです。

蟹の赤色はアスタキサンチンの色

先日、ifia JAPAN 2019という食品素材の展示会に参加してきたのですが、そこで開催されるセミナーの中で「アスタキサンチン」を取り上げたものがありました。

テーマ:
高齢者の認知機能と身体機能および心理状態に対するアスタキサンチン摂取の影響
セミナー企業:アスタリール株式会社

Ifia JAPAN 2019公式HPより

アスタキサンチンって聞くと「美容」のイメージが強かったので、何で「高齢者」なんだろう?と、気になっていました。

そして、実際にセミナーに参加したあと、アスタキサンチンのイメージがガラッと変わりました!「アスタキサンチンってすごいじゃない!」

私みたいに「アスタキサンチンって美容のためのものでしょ」と思っている人のために、セミナーで聞いてきた内容をシェアしたいと思います。

では、本題に入りましょう。

アスタキサンチンってそもそも何?

アスタキサンチンは、黄、橙、赤色を示す天然色素「カロテノイド」の一種です。甲殻類や鮭の筋肉中に存在しています。

アスタキサンチン
英語表記:astaxanthin, astaxanthine
化学式  C₄₀H₅₂O₄
分子量  596.82
構造式

アスタキサンチン(3,3’−ジヒドロキシ−β,β’−カロテン−4,4’−ジオン)
㈱リトル・サイエンティストHPより

しかし、蟹や鮭はもともとその色素を持って生まれてくるわけではありません。彼らはあるものを食べて、体内にアスタキサンチンを摂り込んでいるのです。

その「あるもの」というのが……

ヘマトコッカス藻!!

何それ??

藻です。

自然界に多く分布する藻の一種で、見た目はこんな感じです。

ヘマスコッカス藻の拡大画像/㈱シクロケムバイオHPより

といっても、丸っこいもの1つの大きさは30μmほどなので、そのかたちを肉眼で捉えることはできません。私たちが目にできるのは、薄い青汁のような状態です。(研究員の後ろにあるのが肉眼で見えるレベルです)

ヘマトコッカス藻/アスタリール㈱HPより

あれ?

あのー……

アスタキサンチンって赤色の色素じゃなかったっけ?

これ、どう見てもめっちゃ緑色ですやん。

そうなのです。その通りです。

アスタキサンチン=赤 というイメージが強いのですが、それを生成する力があるヘマトコッカス藻自体は、もともと緑色なのです。

それが「とあるきっかけ」で、赤色になるのです。

そのきっかけとは……

「ストレス」!!

栄養不足や水不足、そして、強い光がヘマトコッカス藻にとって大きなストレスになるのです。

ストレスを感じたヘマトコッカス藻は、「もうやだー!」とばかりに外側の細胞壁を厚くして、守りモードに入ります。このときにアスタキサンチンを生成して、見た目が赤色に変わるのです。

ヘマトコッカス藻が緑色から赤色に変わる過程/アスタリール㈱HPより

内側から赤くなっているのがわかりますね。その後もアスタキサンチンの蓄積量は増え、ヘマトコッカス藻の大きさも増します。そして、休眠状態に入ります。

最初の緑色:遊走細胞(動きも活発)
赤色が出てきた:パルメロイド細胞(動かないが細胞分裂はまだできる)
完全に赤色:シスト細胞(休眠状態)

こうやって、アスタキサンチンができてくるのです。へマトコッカス藻、なかなかやりますね。

そして、例えば鮭がそれを食べ、体内にアスタキサンチンを蓄積→人間が鮭を食べる、というような食物連鎖で私たちはアスタキサンチンを摂取しているのです。

ここでふとした疑問が浮かび上がってきました。

蟹やエビは、茹でると赤くなりますよね?最初から赤くないのはなぜなのでしょうか?アスタキサンチンが体内にたくさんあるのなら、最初から赤くてもいいと思いませんか?

茹でる前のエビは赤くない/身近な科学・学びを遊びにHPより

その答えは、熱によるアスタキサンチンの遊離です。

生体内でアスタキサンチンは「カロテノプロテイン」という、タンパク質と結合した状態で存在しています。この状態のアスタキサンチンは、赤くないのです。

茹でる前のエビや蟹は、赤色ではなく青みがかった灰色をしていますよね。

茹でたり焼いたりすると…… タンパク質は熱で変性するので、アスタキサンチンとくっつけない性質に変わってしまいます。アスタキサンチンがタンパク質と離れて、単独で組織の中に浮き出てくるのです。それが私たちが目にする赤色です。

蟹やエビの中に存在するアスタキサンチンは、タンパク質と離れてやっと赤色になるのですね。

アスタキサンチンは、このようにして私たちの身近に存在しています。

よく知られている作用

アスタキサンチンといえば「美容」をイメージする人、多いのではないでしょうか。特に有名な作用といえば、抗酸化作用ですね。

美容分野での貢献

美容分野における抗酸化作用とは、簡単にいうと「肌の老化」を抑制してくれる作用です。

過去にも化粧品や美容関連の商品がたくさん発売されています。

アスタキサンチンが化粧品成分として有名になったのきっかけは、富士フィルムのアスタリフトですね。松田聖子さんと中島みゆきさんのCMが懐かしい~~!

この「抗酸化」って、そもそもどういったことをいうのでしょうか。

抗酸化作用とは

抗酸化とは、簡単にいうと「酸化させない」です。

私たちは体内に酸素を取り入れてエネルギーとして利用することで、生きていくことができます。しかし酸素の中には「活性酸素」という非常に反応性の高い酸素が存在していて、「誰かを酸化させてやる~」と目をギラギラさせています。体内で使う酸素の2%程度と構成比は低いのですが、実はこれがやっかいな存在なのです。

少し難しい話になりますが、「酸化した状態」とは、その物質から電子が奪われてしまった状態のことです。

よくわからんなあ。。。 と思ったあなた!「酸化」は身近で起こっています。電子を奪われると物質はどうなるか…

サビちゃうのです!!

表面の色は、電子を奪われた鉄の色です。

この錆びるという現象、立派な「酸化」であり、腐食の一種です。

酸化は物質を劣化させてしまいます。

これが体内で起こっているのです。

なのでよく「さびないカラダを!」なんて言いますよね。

これは活性酸素が起こす「酸化」から体内組織を守ろう、といった意味なのですね。

この活性酸素、細菌やウイルスを撃退する力もあるのですが、増えすぎるとやっかいなのです。体内の細胞を攻撃して酸化させてしまい、大きなダメージを与えてしまいます。

これが肌の老化を進行させてしまうのです。

人間の体の中には、活性酸素を除去する抗酸化物質(尿酸、メラトニン等)が存在しています。しかしその作用は加齢とともに低下してしまうので、食事やサプリメントによって抗酸化物質を摂取することがアンチエイジング、健康維持にとって大切になります。

参考:
アンチエイジングに重要な「抗酸化作用」とは?食べ物や生活習慣の改善で老化にブレーキを!/江崎グリコ㈱HP

抗酸化作用がある代表的な栄養素に「カロテノイド」があり、カロテノイドの一種であるアスタキサンチンの抗酸化力は他のものと比較しても群を抜いています。

アスタキサンチンの抗酸化力/アスタリールHPより

これが、アスタキサンチンが美容にいいと言われている理由なのですね。

抗酸化力と分子構造

なぜアスタキサンチンはこんなにも「抗酸化」が得意なのでしょうか?

気になりませんか?

その秘密は「分子構造」にあるのです。

アスタキサンチンを分子レベルで見ると、3つの特性があります。
・ヒドロキシ基(両端)
・ケトン基(両端)
・二重結合と単結合が交互に並んだ部分(間部分)

これらの部分は分子の性質上、「酸化されやすい」部分になっています。活性酸素が「酸化してやるー!」と誰かを狙って動き回っているとき、酸化しやすそうな相手が見つかったら飛びつきますよね。

そうすることで、私たちの体の組織が酸化される前に、身代わりになってくれるのです。なんとありがたい……

そんな「酸化されやすい部分」が、分子1つの中に3つもあるなんて。活性酸素の吸着率も上がります。さすがアスタキサンチン、抗酸化物質の王様ですね。

アスタキサンチンと抗酸化作用との関係がよくわかりました。そりゃ化粧品や美容サプリメントの原料に選ばれますわ。

今回新しく知った作用

これだけでも十分素敵な「アスタキサンチン」ですが、実は他にも素晴らしい作用があるのです。

それがこちら:

  • 筋肉疲労の抑制
  • 認知機能の向上
  • 心理状態の改善

ここからは、実際にセミナーで聞いてきた内容が中心になるので、アスタリール社が行った臨床試験結果を引用してお伝えします。

まず、高齢者を身体機能のレベル別に3つのグループに分けます。その上で、それぞれの「アスタキサンチンを摂取した人」「していない人」を比べます。

A:身体機能の衰えを感じる高齢者
B:衰えはあるが、自分で生活を維持できる高齢者
C:身体機能が高い高齢者

筋肉疲労の抑制

まず、Aグループ(身体機能の衰えを感じる高齢者)の高齢者にアスタキサンチンを一定期間摂取してもらい、その前後で身体機能を比較。

結果は、6分間の歩行距離、1分間の歩行数ともにアップし、歩行機能改善が認めらました。

アスタキサンチンには、筋肉疲労を軽減(活性酸素によるダメージを抑制)する抗酸化作用や、エネルギーを生産するミトコンドリアの機能を高める作用があることがわかっています。

筋肉疲労が抑制されることで、「より長く」「より多く」歩くことができるのですね!

認知機能の向上

今度は、Bグループ(衰えはあるが、自分で生活を維持できる高齢者)に対して行った試験です。

アスタキサンチンを摂取しながらのトレーニングを一定期間経たあとでは、筋肉の量や筋力のアップとともに、「持久力」もアップするという結果が出ました。

持久力と認知力は密に関係していると言われています。そのため、「持久力アップ」という今回結果は、認知力の向上にも大いに役立つと期待されています。

認知機能の効率より向上には、アスタキサンチン摂取と運動を並行して行うことが大きなサポートになるのではないでしょうか。

心理状態の改善

最後に、Cグループ(身体機能が高い高齢者)にアスタキサンチンを一定期間摂取してもらい、並行して運動してもらいました。

試験期間後の測定では、身体機能は「現状維持」となったのですが(もともとが高いので、それもそうかなと思います)、思わぬところに改善が見られました。

それが、認知機能心理状態です。

私はこの「心理状態の改善」ってすごいなと驚きました!

試験では、アスタキサンチン摂取後の心理状態を調査したところ、『怒り』『混乱』『疲労』『緊張』などネガティブな要素が改善されるという結果が出ています。

アスタキサンチン、ただの「赤」じゃない、とってもすごい天然色素だったのですね!

この他にも、糖尿病や動脈硬化の予防、目の疲労感軽減という作用も確認されています。

LIBERA/江崎グリコ㈱
目の疲労感を軽減する成分として、アスタキサンチンが含まれています

商業生産と市場動向

こんなにいいことづくしのアスタキサンチン、どんな風につくられているのでしょうか?

アスタキサンチンの機能性が認知されてきたのは80年代。最初はオキアミに含まれるアスタキサンチンの商業生産が主流だったのですが、オキアミの含有量がちょっとしょぼかった…… そのため、微細藻類由来へとシフトしました。

現在の主流原料であるヘマトコッカス藻も微細藻類すよね!

当初は他の微細藻類も原料として使用されていたのですが、安全性と使用実績の点で、人に使用するアスタキサンチンのほとんどがヘマトコッカス藻由来になっています。

生産方法としては、海にドーン!と培養ドームを設置し、その中でヘマトコッカス藻を育てます。強い光がストレスになってアスタキサンチンを生成すると書きましたが、太陽の光でストレスをバンバン与えちゃいます!(アスタキサンチンよ、出ろ~~!)

今でも主流はこの生産方法です。

しかし、私がお話をお聞きしたアスタリール社は、なんと屋内生産をしているとのこと。

外の環境だと日照時間や水温、その様々な条件の変化が激しく、培養の条件を満たせていないタイミングがあったり、品質や生産量が安定しないという問題点が出てきます。

そこで、屋内生産に生産方法を変えたそう。

……と簡単に書きましたが、これってかなり高度な技術がいるし、設備投資もえげつない額になるし、とてつもない大きなチャレンジだったんだろうなーと、お話を聞きながら思っていました。

こんな感じで研究されています/
アスタリール㈱HPより

現在でもこの「屋内生産」ができるのはアスタリール社だけなんですって。ちなみに、原料の生産拠点はスウェーデンとアメリカにあるとHPに載っていました。

※商業生産に関する内容はこちらの記事を参考にさせていただきました
『Haematococcus属緑藻によるアスタキサンチンの商業生産』/アスタリール㈱北村晃利氏

「アスタキサンチン」というキーワードで国内特許を検索すると、化粧品メーカー、医薬メーカー、食品メーカーが出てきます。有用成分としてのアスタキサンチンに加え、天然の着色素材としても活用されているのがわかります。

また、アスタキサンチンを含む「生物由来有用成分」に関して、面白い記事を見つけました。

引用:健康食品、医薬品などの成分・素材の国内市場を調査/富士経済

生物由来有用成分の市場は拡大傾向。「健康寿命ブーム」の後押しも理由のひとつですね。

そして、注目の訴求機能は……

2022年にはロコモ・サルコペニア関連が683億円規模(予測)になっています。

「人生100年時代にアスタキサンチン」となるのでしょうか!?

高齢化社会への役割

ここでは少しだけ私が感じたことを書きます。

今回のセミナーでアスタキサンチンの作用に関する話を聞いているときに、印象に残った言葉があります。

「身体的側面の衰え」は単一的に起こっているのではなく、「精神的側面の衰え」と「社会的側面の衰え」と相関している。/アスタリール社セミナーより

精神的側面の衰えとは、心理的な不安やストレスからくるもの。社会的側面の衰えとは、退職や引退による立ち位置の変化からくるもの。

体はピンピンしていて気持ちだけが病んでいるってあんまりないし、逆に体が弱ってきているのに気持ちだけずっと元気っていう状況もないですよね。やっぱりどちらかに引きずられるものだし、相互に影響し合うと思います。

私の祖母がそうでした。もう亡くなっているのですが、70歳を過ぎたころから足腰が弱くなり、以前のように外に出かけられなくなりました。性格はすごく明るかった祖母、いつも笑顔で毎日を楽しみながら過ごしていたのですが、外出の機会が減ると、気持ちも少し落ち込みぎみになる日が増えてきました。

日によっては足がしっかり動く日もあったと思います。でも、気持ちが向かないとなんとなく外に出るのがおっくうになってくるのです。体力維持は本当に大切ですが、やはりその体を動かすのは「気持ち」という心理的パートなのです。

なので、特に高齢者のケアに関しては、「筋力をつける」「体力を維持する」というだけの視点ではなく、「体・心を総合的に維持していく」ということがどれほど重要かと感じています。

この経験から、今回のアスタキサンチンの話はとても響くものになりましたし、これからが楽しみな素材だなと感じました。

日本もそうですが、お隣の中国も超高齢化社会に突入します。高齢者が持つ悩みは万国共通。今回の情報、中国人の友人にも知ってもらいたいと思いました。

サプリで簡単に摂れるのも嬉しいですね!(DHC アスタキサンチン)

まとめ

・アスタキサンチンはカロテノイドの一種(赤色の天然色素)
・期待できる作用
  優れた抗酸化作用/筋力疲労抑制作用
  認知力向上作用/心理状態改善作用
・高齢化社会に向けて期待大の有用成分

出展一覧

アスタリール㈱
Haematococcus属緑藻によるアスタキサンチンの商業生産/アスタリール㈱北村晃利氏
アスタリールニュースレター
㈱リトル・サイエンティスト
㈱シクロケムバイオ
身近な科学・学びを遊びに
富士フィルム㈱
㈱サカタ製作所
江崎グリコ㈱
オリザ油化㈱
富士経済

~最後に~

今回ifia JAPAN 2019でセミナーに参加するまで、私はアスタキサンチンに関してほとんど何も知りませんでした。アスタリール社のブースを訪問した際にいくつか質問させていただいたのですが、役員の方、研究開発の方ともに非常に丁寧に教えてくださいました。

大変ありがたかったです。

また、アスタキサンチンへの情熱もひしひしと伝わってきて、「こんな方々が開発する素材って、これからどんな風に進化していくのだろう」と、いち消費者として少しワクワクしました。

お忙しい状況にも関わらず、色々なお話を聞かせていただいたことに、この場をお借りして御礼申し上げます。

以上、アスタキサンチンの隠れた威力についてでした。これからの動向にも注目ですね!