この記事を読むと、自動運転車について知識ゼロの方でも、下記のポイントがわかります。
・よく目にする自動運転の「レベル」について理解できる
・ホンダの「レベル3」発売がなぜトップニュースになるのかわかる
・発売がなぜ「2020年夏」になったのかがわかる
・「レベル3」の課題を知ることができる
今日の朝刊の一面に掲載されていたこのニュース。
◆ホンダ、自動運転「レベル3」20年発売へ 日本勢で初/日経新聞
◆ホンダ、高速渋滞時に自動運転「レベル3」来夏にも発売 日本勢初目指す/産経新聞
◆ホンダが来夏にも自動運転レベル3搭載車/livedoorニュース
午前中はYahoo!ニューストップにもなっていましたね。
以前であれば「へ~」で終わっていたこのニュース。今日の私は運命を感じて食い入るように読んでいました。なぜでしょうか?参加したばかりのSEMICON Japan2019で聴講したセミナーで取り上げられていた内容とドンピシャ!!だったからです。
このニュースの概要を、SEMICON Japan2019で学習した知識、タイムリーな情報を交えながら解説していきます。
目次
そもそも自動運転車の「レベル」って何?

自動運転技術のレベルは5段階
現在日本で採用されている自動運転技術のレベル区分は、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準をもとに、下記の5段階で定義されています。
ポイントは「運転の主体」
レベル区分が議論されるときの大きなポイントのひとつが「運転の主体」です。
レベル1からレベル2は、運転の主体は運転者、つまり人間です。自動運転システムはあくまで「援助」する立場ということです。運転は人間が行うことを前提として、人間が不得意な部分や疲れが出やすい部分を、シーンを限定してシステムが助ける(サポートする)という技術です。
変わって、レベル3以上は運転の主体がシステムになります。ここがレベル2までとの大きな違いです。
運転するのはあくまでシステム。そこに、緊急時を含めた「必要な状況」のときに人間が手を出す、というものです。
人間が手を出す割合はレベルが上がるごとに低くなり、レベル5の場合は「全ての運転をシステムが行う」という設計です。
レベル3は、「運転の主体がシステム」という段階の中で、人間が運転することがあるシーンが最も多いものとなります。
基本的にはシステムが運転するのですが、走行環境や緊急性などの状況を見てシステムが運転しないと判断した場合には、システムが「変わってください」という合図を出して、人間が運転を交代する、というのが「レベル3」です。 この「システムと人間が適宜交代する」というところにレベル3の大きなジレンマがあります。これについては後半に解説しています。
今、日本で走っている車は「レベル2」
高速道路走行中、前の車に自動でついていく。自動で駐車してくれる。CMでよく見るシーンですね。
これらはすべて「レベル1」「レベル2」の技術です。
現在、日本で発売されている車に搭載されている自動運転技術は、すべて「レベル2」以下のものです。
アクセル・ブレーキ(止まる・進む=前後)の動き、ハンドル(横向きを操作=左右)の動き、この2つを単独もしくは組み合わせることで、運転者である人間をサポートしています。
ホンダが「レベル3」を発売するのって、そんなにすごいことなの?

世界の自動車メーカーを見ても、「レベル3」の発売は限定的
現在、レベル3の自動運転技術を搭載した車の開発に成功しているのは、ドイツのアウディ。2017年に技術を確立して、新モデルに搭載することを対外的に発表しました。しかし、日本でもこのモデルが発売されているのですが……
実のところ、敢えて機能を落として発売しています。なぜでしょうか?その理由は、ひとつ下の「もっと早く発売してくれればいいじゃないか」で解説しています。
世界の自動車メーカー、自動運転技術開発メーカーの各社が、レベル別の開発計画を立てています。それをまとめたものがこちらの図です。
各社計画を立てているものの(対外的な発表をしている企業もあります)、なかなかその通りにはいっていないのが現状。
ポイントとしては、2020年はレベル3の発売が集中する年になりそうという点。そして、レベル3を飛ばして、レベル4にステップアップする企業も少なくないという点。
これには技術面以外の要素が大きく関わっているのです。それを次に解説します。
もっと早く発売してくれればいいじゃない

ホンダの「レベル3」は来年の夏以降の発売。これだけ大々的な発信がされるということは技術ももうできているわけなんだし、もうちょっと早く発売してよ!と思う人もいるかもしれません。
そもそも、アウディでもうできているのだから、さっさと発売してよーお金ならいくらでも出すわよっという車ファンもいるかもしれません。
なぜ「早くて2020年の夏」なのでしょうか?
理由は、道路交通法です。
今、自動運転車の技術進歩に合わせて法律をせっせと変えているのです。道路交通法が改正されて新しい内容になるのが、2020年の夏(予定)というわけなのです。
例えば、今、運転席でスマホをチラ見したらどうなりますか?道路交通法違反で捕まっちゃいますよね。
でも、自動運転のレベル3というのは、「システムに運転を任せている」という状態が基本ラインになり、緊急時には人間に戻すものの「人間さん、運転しなくていいですよ」という状態を実現するというもの。当然、その間は「運転から開放された状態」がつくりあげられ、本を読んだり、DVDを観たりすることが可能になります。スマホなんていじり放題です。
法律が変わる前にそれをやっちゃうと、いくら「レベル3の車に乗っているから」といっても、捕まっちゃいます。法律優先です。当たり前ですが。
なので、法律を改正して、「条件に適合していれば、スマホいじっていても捕まりません」という内容を加えなければいけないのですね。
そこが整ってようやくGoサインが出たと言えるのです。
アウディが先行して開発したレベル3の車も、この「法律の壁」があって、世界各国で浸透しませんでした。法整備が追いついていなかったのですね。日本も同じ理由で、アウディのレベル3を走行させるのが不可能でした。
この観点で見ると、2020年の道路交通法改正は自動車業界にとって大きなターニングポイントになります。各社一斉にレベル3の自動運転車を投入してくるでしょう。
いつの時代も、法の改正は市場を大きく変化させる一番の起爆剤ですよね。
「レベル3」が抱える大きなジレンマ

ここからは「レベル3が抱えるジレンマ」と題し、レベル3の自動運転車に存在する課題を取り上げます。
SEMICON Japan2019のセミナーで学習してきた知識を基に、自身の体験を交えながらできるだけわかりやすく解説していきます。みなさんも、自分が運転者になったシーンを想像してみてください。
セミコンのセミナーで聞いた一言が非常に印象に残っています。
「はっきり言って、自動運転の中で『レベル3』という存在が一番難しいのですよ」
なぜなのでしょうか?
ポイントは2つあります。
事故が発生したとき、どちらに原因があるのかを証明するのが困難
「レベル3」は運転の主体がシステムであるものの、「状況を判断し、緊急時は人間に運転を戻す必要がある」とされています。
この、「完全にシステムではなく、けれども完全に人間でもない」という自動運転レベルの状況の中で、事故が起こったときに原因はどこにあるかの証明が困難になってきます。
つまりは、責任の所在がシステムなのか、人間なのか、ということですね。
このあたりの議論はテスラの事故で注目を集めましたが、レベル3となるとその課題が一層複雑なものになります。なぜなら、「基本的な」主体はシステムだからです。
大きなところでは「システムか人間か」という話になりますが、もっと細かくみていくと、これはシステムと運転者だけの問題ではなく、例えば購入者(法人用で運転者と購入者が別の場合)、販売メーカー、システム製造メーカー、もしくは走行許可を出した自治体など、責任の対象は複雑かつ階層的に増えていきます。
被害が出るということは、保険や賠償の問題などにも発展します。ということは、民事や刑事など、法的問題にも発展するということです。
現行の自動運転車は「レベル1」「レベル2」なので、運転の主体は人間。つまり、責任も人間というある意味シンプルな構造であり、運転者も納得のもと、この技術を取り入れています。あくまで「運転支援」という位置づけなのです。
それに対し、システムが「主体」となった場合、かつその「主体」が状況によって流動的に変わる場合、事故発生の「瞬間」の所在を明確にするのは難しく、さらにそれを証明することはより困難になってきます。
一旦運転から離れた人間は「安心」してしまう
これはセミナーの話を聞いていて納得の部分でした。
ポイントは、「中途半端に自動運転が介在する」ということ。
システムが運転しているとしても、緊急時に人間と交代することが前提となった自動運転レベルです。
「交代が必要」になったときにちゃんと運転に戻れるような状態でないといけない、そう定義されています。
しかし……
想像してみてください。これってめちゃくちゃ難しくないですか?
私は過去に営業をしていたので、社用車で得意先に行くことを日常的にしていました。たまに、非常に遠方の得意先に朝一番で行かないといけないときがあり、5時、6時に家を出ることも。
ひと仕事終えて外でお昼ご飯を食べると、いつもよりも格段に早く起きているのでめちゃくちゃ眠たくなるのです。もうどうしてもまぶたが落ちてきてしまい、命の危険を感じる……。そんなときは、ちょっと失礼とばかりにコンビニの駐車場や大型ショッピングモールの隅っこの駐車場で30分ほど仮眠していました。これ、営業あるあるだと思います(笑)
少し寝ると本当にすっきりするので、再び運転して会社に戻ります。
しかし、寝起きって頭がぼーっとしていて、ふわふわしているので、目覚めてすぐに運転できる状態ではありません。一旦車の外に出て、身体を伸ばして屈伸運動。コンビニの中を一周してコーヒーを買って、歩いて車に戻る。
時間にして5分程度ですが、これをやらないと頭と身体の動きが戻ってきません。
考えてみれば、寝起き1分後に車を運転するなんて、そんなシーンあまりないですよね。日常生活でも、服を着替えたり、トイレに行ったりして何かしらの「目覚める時間」というのをふんでいるはずです。
自動運転でシステムに運転を任せている場合、寝ることまではしなくても、きっとリラックスしていると思います。DVD観たり、本を読んだり。でもそこから一気に運転モードに切り替えるって、かなり難しいと思います。
もっと言うと、一旦リラックスモードになった脳って気持ち的にも安心しているので、運転から一旦離れてまた戻るとき、緊張レベルが低くなっていることすらも気が付きにくいはずです。
これが、セミナーで聞いた「中途半端に自動運転が介入する」が生み出す「安心してしまう」という状態なのです。
確かに、緊張感ってある程度継続して持ち続けているとレベルは維持できますが、オン・オフがパチパチ切り替わるというシーンはあまり想定されていないですよね。
逆に言うと、緊張感を瞬時に戻せる状態を常にキープしておくって、自動運転を導入するメリットちゃんと教授できているの?と思っちゃいます。
運転の緊張感、ストレスから開放されるための自動運転ですもの。
このあたり、色々な矛盾が存在していて、「レベル3の存在が一番難しい」と言われるのは納得です。
中国の自動運転技術について少しだけ

中国の動向を見ていると、下記の3つが浮き出てきます。
1、「レベル3」よりも、「レベル4」「レベル5」の量産に向けた動きに注力
2、自動運転という領域で勝負するのではなく、5G、AIを駆使した総合モビリティサービスという観点で動いている
3、都市がまるごと実験室
1については、バイドゥのアポロ計画をはじめ、スタートアップ企業も次々と誕生し、着々と成果を上げています。2、3にも共通しますが、中国のすごいところは何といってもその規模感!北京の雄安地区はもはや有名ですよね。深センでも自動運転車走行可能エリアを広げ、様々な技術が生まれています。
都市まるごと実験室といったところでしょうか。
ちなみに、中国では現在、日本と同じように「レベル1」「レベル2」の自動運転技術が搭載された車が販売されています。しかし、普及率は新車販売台数のうち15%程度で、非常に低い比率です。(日本は新車販売台数のうち75%程度)
中国は自動車購入時に価格に敏感なので、そのあたりも影響しているそうです。そもそもナンバープレート取得するのにも莫大なお金がかかるし、中国で新車購入するって大変なのです。。。
そう考えると、一般的な個人購入を狙うよりも、インフラのひとつとしてレベルの高いものを大量投入する方が、中国のやり方として未来の可能性が広がっていくのでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。まとめると、
ホンダが「レベル3」の自動運転車を発売!
このニュースから、下記のポイントをまとめてみました。
・よく目にする自動運転の「レベル」について
・ホンダの「レベル3」発売がなぜトップニュースなのか
・発売がなぜ「2020年夏」になったのか
・「レベル3」の課題
各社のこれからの動きに注目ですね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。