今週、和訳案件の依頼を1件いただきました。
特許翻訳者になるべく講座を開始して、ちょうど1年4カ月目に入ったところでした。やっと、やっと……やっと手にした初めての実ジョブ(特許・和訳)です。
全力を注ぎ込むってこのことだな、という数日間を過ごしていました。一方で、少しだけ落ち着いている自分もいました。落ち着くように自分に言い聞かせていたというのもあると思います。
短い案件でしたが、納期は3日後と少し長めでした。持てる時間の中でこれでもかというほど魂を注ぎ込み、無事に納品。
ほっと一息。忘れないうちに記録をつけて、もろもろ整理して、大量に印刷した資料を次使えるように振り分けて……。その後は数日間放置していた山盛りの家事を一気に片付け。
初めての実ジョブ、無事に終わってやれやれですが、トライアルや学習とは「取り組み方」に関する難易度がぐっと上がったのを感じました。新たな宿題が出てきました。これは実ジョブ納品完了と同時に整理しています。
所感含め、忘れないうちに記録に残したいと思います。
目次
運がよかったこと

今回、運がよかったことが3つあります。
依頼日がアルバイトの日ではなかった
週3日ほどアルバイトをしているのですが、依頼が来た日がアルバイトの日ではなかったので、すぐに返事を返すことができた。
※取り組み日に関してはアルバイトが2日ほどありましたが、なんとかうまくやりくりすることができました。
「アルバイト中は当然ながら自宅にいない問題」に関してですが、スマホにメールが飛んでくる設定にしていること、1時間に1回「トイレ」に行ってメールを確認することで「最低でも1時間以内に返す」ができるようにしています。
しかし、翻訳の「依頼」となると原文を確認する必要がありますし、今まで行った翻訳会社は(セキュリティの問題もあり)ほとんどが専用ページ経由のファイル受け渡しになり、それだとスマホで確認ができません。
ここはこれから対処を考えていかないといけません。
「今、外出していて、○時に帰るので、その後○時までに返信しますが、よろしいでしょうか」みたいな定型文は、すぐに貼り付けできるようスマホに保存してあります。
長くとも半日なので、うーん、うまく対処するしかありません。アルバイトしている飲食店は家から徒歩10分なので、最悪、休憩時間にダッシュで家に帰れますので、実ジョブ依頼と重なったらそうするつもりです。
アルバイトを辞めて完全専業体制にするのが一番の理想ですが、書籍やセミナー代など、やはり「稼がないといけない金額」はあります。家庭のお金に頼るわけにはいきません。もちろん、正社員に比べたら極小金額ですが。
「翻訳で○万円稼いだら、即刻止める」というラインを予め設定しています。期限も目標設定しています。今はもう少しだけ続ける必要があります。
納品日は実家に帰省する前
お正月に帰らなかったので、今週末に私の実家に帰省(関東から関西に移動)することが決まっていました。短めとはいえ、仮に納品日が「帰省中の日程」だったり「帰省後の日程」だった場合、環境的にも全てを注ぎ込むことが難しいので、きっともやもやしながら全力を出し切れていなかった可能性があります。
ある程度ベテランになったら「帰省するので」もありかもしれませんが、今のレベルで、しかも初ジョブのときにそれだと、かなり印象悪いと思うので……
帰省の前に終わらせることができてスッキリしましたし、ほんのちょっとだけ前進できたという事実の後に帰省するのは気持ち的にも嬉しいです。
予備PCでストレスフリー
これは運というか、「準備していて助かった」という内容です。
納品直前で、いつもメインで使用しているノートPCが急にフリーズしだしたのです。再起動したらすぐ直りましたが、操作を継続するとまたもや同じタイミングでフリーズ。
「後は送るだけ」という状況だったので、ここでもたもたしたくはありません。
原因は後からチェックして対処するとして、今は「納品」が優先です。そこで予備ノートPCにUSBで納品ファイルを移動させ、そちらで操作して納品しました。
後から色々確認しても原因がわからず、その後は全く問題なく使用できています。
あの後また再起動して操作を継続すれば問題なかったのかもしれませんが、「うまくいなかいー」「なんでこのタイミングでー」「はやくしないとーーー」みたいに心理的に焦らずに済んだのは、予備PCがあったからです。
あのタイミングでごちゃごちゃ原因を見つけにいくのも、何度か再起動して試すのも、時間がもったいないですし。
やっぱり予備PCは必要だなと実感しました。
初ジョブを終えて感じたこと

準備は大切
これは訳出前の準備ではなく、実ジョブをいただく前の準備です。
今回、仕事の依頼をいただいた翻訳会社とは過去に面談をしています。その際に「こんな案件が多いよ」と、カテゴリや具体的な分野、クライアントを教えていただきました。そして、その後必死こいてその知識を学習し、急ピッチで基礎を作り上げました。(直近の特許も何件も読んで分析していました)
具体的にやったことは、書籍3冊を吸いつくし、専用ノート作成+まとめ、特許の読み込み、直近技術の理解、用語フォローです。
これ、急ピッチでやっていて本当によかったです。これやっていないときっとチンプンカンプンでした。
というか、ちゃんとそういった案件(面談で共有した分野やカテゴリ)を最初に投げてくれる翻訳会社の計らいに感謝です。
準備した内容がそのまま来るわけではない
上に書いたことと相反するタイトルですが……。
実は学習していた内容のど真ん中が来たというわけではありませんでした。例えるとこんな感じです。※面談の内容そのまま書けないので、実際とは全く関係のない企業・カテゴリで例えています
<数週間前の会話>
翻訳会社「うーん、うちは自動車が多いね」
私「そうなのですね!自動車!メインクライアントは……?」
翻訳会社「ホンダだね」
私「ホンダ!ホンダですね。ホンダで自動車…。準備しておきますので!」
帰りに自動車の書籍を購入、1週間がっつり学習。「自動車って奥が深いー!」(頭の中、自動車でいっぱい)
……で、実ジョブが来たと思ったら、たしかに「ホンダ」の案件。
しかし…
内容は「バイク」!!!
という感じでした。
バイクだと使われている部品も異なりますし、仕組みやその名称も異なります。なので案件を見たときは「うわっ!自動車じゃなくてバイクやないかい!バイクわからんし!!」と一瞬びびってしまいました。
でも、部品やシステムの名称に関しては自動車と異なるとはいえ、例えば「時速」「安定」「走行」など、共通概念も多いですよね。
自動車ど真ん中ではないですが、自動車を学習しておくことによって、バイク知識へのアプローチをするときに、何かしらの免疫がついている状態で取り組めるのです。よって、アレルギーもなく、ハードルも下がった状態で取り組めるのです。今回がそうでした。
恐らくこれからの仕事に関しても、事前に学習していたカテゴリがど真ん中でくることの方が珍しいと思います。でも何かしら近しいカテゴリに関して学習した経験があれば、そこから小さなフックをみつけ、共通項をみつけ、目的物にたどり着く大きなヒントになってくれると、今回の実ジョブを通して感じました。
「何のための翻訳か」だけではなく、「誰のための翻訳か」も考える

実ジョブを途中まで進めて、折り返し地点ぐらいに来たとき(といっても短い案件ですが)、何かちょっと違うなと感じていました。
訳出や、それ以前の準備に関して、全力投入でやっているのですが、何かしっくりこないというか、「熱」が入っているようで入っていない、いや、かなり力が入っているので「熱」はあるのです。でも、何か違う。「ノリきらない」という言葉が一番近いかもしれません。
アルバイトに行ったときにずっと考えていました。
何でだろう。
出た結論は、マインド面でした。
初めての仕事でびびっていたというか、肩肘張りすぎというか。要は「合格」しにいこうとしている自分に気がついたのです。
「この初ジョブが実質のトライアルだ」
「ここで成果をあげないと」
「次に継続するようなレベルの訳文を出さないと」
もちろん、これも事実です。せっかく掴んだチャンス、次につなげるべきですしそういう気持ちを持つのは当然です。それに向けて動くのも当たり前です。
でも、その「合格しないと」という気持ちが自分で思っているよりも大きく、これではいかんと思ったのです。これだとトライアルと同じじゃないかと。
今回は「仕事」。トライアルとは違います。お金が発生します。
そしてもうひとつ大きな違いは、この先にクライアントがいるということ。
これは今までの「合格するため(=自分のため)の翻訳」ではない。
その上で、きっと私に足りないのは「責任」と「覚悟」と気が付きました。
この特許、そこにいたるまでのものづくり、技術の確立に命をかけているメーカーの技術者たち。その人の「責任」を一緒に背負ったか?それを全て背負う「覚悟」で翻訳をしたか?
ここでした。足りていないのは。
「合格」をしにいくのは自分のため(もちろんそれは現実として達成しないといけません)、けれども、この文章を翻訳することで、「誰の」「何を」実現することができるのか考え、そのパートに全責任を負うこと。この気持ちが「次も仕事がもらえるラインの訳文に仕上げないと(「合格」しないと)」という気持ちに少し押し流されていたのです。
フリーランスだからって、外部からの「頼まれ仕事」ではない。この瞬間はクライアントであるメーカーの「社員」になって、チームとして、一字一句に責任を持ち、その先の目的に到達できるように全力を尽くすことをやっているか、改めて自分に問いました。
そうすると、何だか目の前がぱっと晴れた気がしました。感じていた「ノリきらない」という気持ちがすっとなくなっていきました。
前職がメーカーということもあって、ものづくりには非常に情熱を感じます。だから特許翻訳者を目指したというのもあります。(詳しくはこちらにつづっています)
なので、表面の「文字」に情熱を注ぐだけでなく、その向こう側にいる技術者の立場、情熱に一緒になって責任を持つという考えがストンと自分に腹落ちしたのです。
これは前職(食品メーカー)の経験が大きいと思います。メーカーは文字通り世にないものをつくりだし、商品という「モノ」を通して新たな価値を提供します。ここにいたるまでの背景、技術者の汗、涙、関わっている何百人の社員。これらを想像するのは私にとって難しいことではありません。そして、最も共感できる部分でもあります。「その人たちのため」と考えると、色々なものが具体的に見えました。
考えると今までは「原文の向こう側を見ないと」と思ってやっていても、トライアルなので結局は自分のためであり、トライアル突破のためによい訳出をするための「思考方法」のひとつにすぎないというか、一生懸命やっていましたが結局は「自分のため」だったのです。
今回はリアルな状態で「向こう側」が存在すること。ここは大きな違いです。そしてそこのチームの「一員」として、責任と覚悟を持つ。
こう考えると、「さらに何をしないといけないか」が見え、訳出が非常に楽しくなりました。
今回感じた「マインドの変化」は、私にとって非常に大きなものでした。
もっともっと人の役に立ちたいし、翻訳者としての責任と覚悟を持って、ものづくりに関わっていきたい。特許翻訳って、本当に楽しい。
そして、翻訳者としてものづくりに関われるそのステージにやっと到達できたのだと思うと、心の底から、本当に心の底から嬉しい。
「ステージに到達」なんて偉そうな表現をしましたが、実際はまだまだ片手が引っかかっているぐらいのレベル。この嬉しさを原動力にして、さらに頑張っていきます!!