先日提出した校正トライアルのふり返りを実施しました。どの部分でどのような問題があったのか、合わせて具体的な対策を立てていきました。
今回初めて校正のトライアルを受験。言語方向は日→中でした。要は、日本語を見て訳出された中国語に間違いがないかをチェックします。分野は特許翻訳ではなく産業翻訳です。
分析結果から見ると、残念ながらほぼ確実に落ちていると言えます。
一言で言うと、「校正トライアルならではのトラップに見事にはまった」です。もちろん注意して、集中して取り組みましたが、あとからじっくり時間をかけてやってみると「そうか、ここでこういうトラップが仕掛けられるのか!」という部分で回避できていなかった箇所が1課題につき2箇所もあり(課題は2つでした)、天を仰ぐことになってしまったという情けない結果です。
「自分が訳出したものをチェックする」のと「すでに完成した状態の訳をチェックする」のとでは、必要な能力(視点)が大きく異なることを今回実感しました。まさにこの部分です。
人が作った訳を原文と見比べてチェックするのって、本当に難しい。その難しさを今回全身で感じました。その難しさは、想像とは全く違っていました。
しかも時間制限がある中で。
悔しさはとてつもなく大きいですが、その分「絶対に次につなげてやる」という思いがわいてきました。
項目が多くて恥ずかしいですが、今回できなかったことを晒します。
目次
校正トライアル その難しさと対策

中国語と日本語だからこその難しさ
問題:日本語にもある漢字、フレーズは違和感を感じにくい
これは今回、最も深く心に刻まれたことです。
今までは翻訳ばかりで「正しい用語か」「意味が通じるか」という観点で用語や文全体をくまなく見ていました。つながりが少しでもおかしいとそこに違和感を感じますよね。この違和感を感じるタイミングって、大体が「訳出をする」という過程で感じます。
しかし、校正はすでにできあがっている訳文があります。そこから違和感を感じるのって、違う難しさがあります。
特に中国語の場合は同じ「漢字」なので、漢字に引っ張られてしまうということが今回よくわかりました。これ、中国語ならではだと思います。
めちゃくちゃわかりやすい例をあげます。
例えば、アメリカのことを米国って言いますよね。中国語でアメリカは「美国meiguo」といいます。
原文の日本語が「米国」と書いていて、訳文の中国語が「美国」と書いているのが正解です。
しかし、訳文には「米国」と書いてあった場合。当然ながら「美国」に訂正する必要があります。
しかし、私はこれを見落としていたのです。
答えは簡単。私の頭の中で「米国」という単語は存在していて、かつ「米」も「国」も中国語の漢字として存在している。そして大量の漢字(文章全体)に埋もれてしまって、異物として違和感センサーにひかからなかったのです。
他の箇所の漢字の間違い(誤字)、訳抜け(脱字)はちゃんと発見できました。しかし、この「誤訳」の訳語が「見慣れているもの」であるが故に、私の中で成立してしまったのです。
この「米国」と「美国」、自分が訳出するのであればほぼ絶対にやらない間違いですが、上記の原因のために、すでに存在しているものを見比べるという情況だからこそ起こり得るということが今回よくわかりました。
【対策】逆方向からのチェック
原文の日本語から訳文の中国語が生み出され、そこに間違いはないかということをチェック。なので、もちろん原文である日本語を軸として比較を進めるのですが、逆方向からもチェックするという対策を取ることにしました。
理由は、提出後の分析で逆方向からチェックしたときに気がついたからです。
AからBを見たとき、またはAとBを同時に見たときには気が付かないものでも、B→Aを見たときには浮き出てくるものがあります。
今回は時間内にもう一度見直しを実施しましたが、同じ言語方向からの見直しでした。
次回からは逆方向見直しを入れ込むことを、事前に準備した校正スキームに追加しました。
何度も繰り返し登場する用語はトラップだと思え!その1
問題:何度も登場する名詞(長い名詞)は無意識に「前と同じ」と思い込んでしまう
複数回登場するちょっと長めの用語。ここにはトラップがあると考えるべし。これを学びました。
例えば、
「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー春季リニューアルに向けた工事工程」に変更があり、
「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー春季リニューアルに向けた工事工程」が予算により大幅改定となり、
「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー秋季リニューアルに向けた工事工程」について議論となったとはいえ、
「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー春季リニューアルに向けた工事工程」について今後の動きは決まっていないが、
と、同じ名詞(長いですが1つの名詞)を主軸に様々な文が作られていたとします。
私は「間違えてはだめだ」と注意はしているものの、知らず知らずのうちに、その注意が動詞などの「変化のある部分」だけに向けられていたのです。
要は、「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー春季リニューアルに向けた工事工程」というフレーズを何度も目にする中で、それが自然にひとくくりのものになり、イコール全て同じだと勝手に思い込んでいました。
実は3つ目の文だけ
「梅田再開発エリア内の複合ビルAタワー秋季リニューアルに向けた工事工程」
春季ではなく秋季でした。
【対策】EKWordsを使用。目視(流れ)でわからないものを機械的角度で見る
EKWordsを使用すると、単語を区切って縦に並べて見るということが可能。上記問題の対策には非常に有効です。
EKWords、中国語の区切り方は正直いまいちなところがあります。特許文書などでキーワードの数から内容の肝の部分を抽出しようとしても、正直いまいちな部分がありました。なので、そのイメージがあり今回本番では使わなかったのです……もったいないことをしました。
この使い方は「内容を理解する」ではなく「機械的に並べる」という物理的視覚への補助を目的としているので、十分に役立ちます。(ふり返り時に実際やってみて感触もよかったです)
次回からの工程に差し込みました。
何度も繰り返し登場する用語はトラップだと思え!その2
問題:何度も登場する同じ表現パターンの文章は無意識に「前と同じ」と思い込んでしまう
その1の「何度も繰り返し登場する」は、主に名詞(長い名詞)を指しますが、その2は「表現」についてです。
同じ意味で使われている文章です。
これ、例えるのが難しいのですが、
原文:当日な~、もし雨とか雪とか降ったら最悪やん、ほな中止にするしかないやんなぁ~
「これをできるだけ短くして、標準語に訳せ」という問題で
訳文:当日、もし天気が悪かったら、中止にするしかないよね
訳文:当日、もし悪い天気だったら、中止にするしかないよね
という2つの訳文が出てきたとします。1文ずつ見ると、どちらも正解。文法的間違いはなく、表現としてもおかしくないです。
しかし、この2つが同じ文章の中にそれぞれ登場している場合、どちらかに統一した方がよいです。要は、表現においての訳ぶれになります。
ようは、このトラップにはまったということです。
原文と訳文を行ったり来たりして見る中で、「対訳としておかしい部分はまったくない」という視点ばかりで見てしまい、訳文全体を見るという視点が弱っていました。しかも文章内で場所が離れていると(ページが違うとなおさら)ここまで気をつけて見ることができませんでした。
【対策】似たような構成のチャンクがあればトラップと疑う
今回、終わってじっくり分析をする中で「こんなトラップの仕掛けられ方があるのか!」と、終わって初めて気がついたことが複数ありました。悔しいですが、本番では気が付きませんでした……。しかし、次回からは「こういう場所にはだいたいトラップがある」という視点を持って臨めるので、その視点を新たに教えてもらったと前向きに考えます。
別の見方をすると、トラップを仕掛けるということは、実際にも同じ部類の間違いが多いということ。なのでトライアルか実ジョブかに関わらず、このポイントに自然に注意がいくようになるべきであるということ。
自分で分析をして自分でショックを受けるという経験をするからこそ忘れないことってありますよね。これも収穫です。
リライトと誤訳修正の違い
問題:リライトと誤訳訂正の明確な差がわからない
校正のトライアルなので、「こういった言い回しの方が綺麗でしょ」に対する修正は求められていません。
指示事項にもはっきり「リライトは必要ありません」と記載されていました。しかし「誤訳は訂正してください」とのこと。
課題を進めていくと、「これって訂正すべき誤訳?ぎりぎりセーフ」と迷うところが数個ありまり、その判断が難しいと感じました。
なぜ判断が難しいかというと、その文を読んで意味がちゃんと伝わるから。
明らかな間違いはもちろん訂正しました。が、意味がちゃんと通じるだけに、ここって変更すると「必要のないリライトをした」ってことになるのかな?と思う部分がちらほら。でも違和感を感じないでもない……。
結局そのままにした部分もあります。
【対策】中国人が実際に使用する表現か否かを判断する
今回はひとつの判断基準を設けました。
現段階での私の基準は、
・仮に意味が通じていても、「中国で明らかに使われない表現」は誤訳(修正必要)
・「数が少なくても使われている例がある」という文への修正はリライト(校正では必要なし)
自分で翻訳をするわけでもなく、時間もないので、専門書を見たり専用ノートを作ったりという裏取りはもちろんしません。一般的なネットや専門サイトを見に行って、短時間でできるだけたくさんのパターンを見て、上記の判断を下しています。
ただ、この部分の感覚は、正直まだつかめていません。ある程度数をこなす必要があるのかなと思っています。
一部を入れ替えても意味が通じる文には注意
問題:似たような形容詞が続くと細かな配置の違いに気が付かない
これも「思い込み」が原因です。イメージで捉えてしまっているのですね。
例えば、
原文:優しい妻、美味しいご飯、家に帰るのが幸せだな。
訳文:美味しい妻、優しいご飯、家に帰るのが幸せだな。
一瞬で間違えに気が付きますよね。「優しい」と「美しい」が逆になっています。
※実際には訳文は中国語ですが、わかりやすくするためともに日本語で書いています
今回私が拾えなかったのはこちら。
原文:温かいスープと熱々のお茶まで出してくれて、嬉しかった
訳文:熱々のスープと温かいお茶まで出してくれて、嬉しかった
「温かい」「熱々の」が逆になっています。
しかし、私はこれに気が付きませんでした。
自分で訳出する場合、形容詞ととの係り受けまで細かく細かく見るのは当たり前なのでこのような間違いはしないでしょう。
しかし、違和感の無い文を「提供されただけ」だと、「温かいスープと熱々のお茶」というのがひとくくりになっていて、細かく分解して(1つの単語ごとに)見比べができていなかったのです。
一見「これぐらいは気が付きそう」という内容ですよね。
しかし、時間制限がある中で、かつ大量の文章に埋もれている中でだと、実際にやってみたら拾えなかったというのが現実でした。
【対策】形容詞だけ違う色でチェックをする
その形容詞がどこにかかっているのか。文全体で(イメージで)捉えてしまう癖があるのがわかったので、そこは視覚で区切って、「これはここに係っている。これはこっちに係っている」と形容詞ごとにチェックするように仕向けることが必要だと感じました。
ただ、その分の時間が少しだけプラスになるので、全体のスピードを上げるための工夫もする必要がありますね。(迷わない、判断を下すまでのスピードを上げる、違和感センサーを磨く、など)
文章(文字、単語)ばかりを見て終わってしまった
問題:文章だけを見ていた
校正トライアルの課題素材は文章「だけ」なのでしょうか。
「太字やフォントのレイアウトは修正必要なし」と明記されていましたが、イコール文章(文字、単語)だけと思ってしまいました。でも、違いました。
どういうことでしょうか?
例えるならこうです。
全ての段落の冒頭、改行後の文頭は1マス空け(中国語なら2マス空け)で統一されています。しかし、とある文章の冒頭だけ1マス空いてなかったのです。
これ、「1マス空け」に統一するべきですよね。「太字」でもないし「フォント」でもないので、ここはちゃんと気遣いできないといけない部分だったはずです。
しかし私は、文章の中の間違いを探すことで手がいっぱいになってしまい、ここまで細やかな気遣いができていませんでした。
「そうか。こういうところも見られているのか……」と、自分の視点の狭さにがっかりしました。
【対策】最初に「1マス空け」の抜けがないか全体を見る。(頭使わない部分なので最初に済ませておく)
どこまでが「レイアウト(=修正不必要)」に該当し、どこまでが「訳文としての欠落(=修正必要)」になるのか、毎回見極める必要があります。
この視点は、自分で訳出する翻訳では存在していませんでした。
繁体字の入力はGoogle繁体字入力ソフトが一番
問題:繁体字のキーボード入力が使いにくい
今回は簡体字、繁体字ともに課題が準備されていたのですが、日→中の言語方向であれば繁体字を入力する必要があります。(中→日の言語方向であれば、入力は日本語ですし、原文をちょっとだけ引用するならコピペでOKで事足ります)
PC入力可能に設定している中国語は簡体字なので、今回は課題取り組みの前にMicrosoftのIME繁体字を設定し、繁体字も入力できるように設定して臨みました。
本番は何とか終えることができましたが、繁体字入力は非常にやりにくい。Microsoftの標準システムであり同じ種類の入力ツールであるにも関わらず、簡体字にようにスムーズに動きません。
そもそも繁体字は簡体字のようにピンイン(ふりがなのようなもの)で入力するものではなく、デフォルトでは「ボフォモホ(繁体字特有の音規則表現)」で入力するもの。そこを無理にピンインで入力できるように設定変更したり、ちょっとややこしいのです。※中国語以外の言語の方にとっては意味不明だと思いますので、スルーしてください
どうしたものかと色々調べた結果、繁体字はGoogle繁体字入力システムが最も使いやすいとのこと。
Google繁体字入力システムは予測変換も出ますし、簡体字と同じようにピンインでの入力設定も可能です。
【対策】繁体字入力はGoogle繁体字入力システムを使用(Google台湾から直接インストール)

動作もスムーズで、予測変換も出てきます。

設定画面は予測変換バーの上で右クリックすると出てきます。
「属性设定」→「外观」→「每页候选字」タブで予測変換時に表示される単語数を増やせます。私は最大の9個にしています(次の候補ページにいく回数を減らすため)。

最後に

その他、細々した発見はブログには記載していませんが、ざっと大きなものでこれだけの気付きがありました。
今回、初めての校正トライアル、初めての言語方向(日→中)と初めてづくしで、「ここまで気がつくことができなかった」のオンパレードだった、というのが本音です。情けないですが。
本当はブログに書くのもやめておこうかなと思いましたが、自分への戒めと、次は絶対に同じことをしないという約束もかねて、ここに晒しました。
もっと言うと、仮に同じ内容を(受講生のブログなんかで)事前に目にしていたとしても、恐らく同じ結果になっていた可能性が高いです。それだけ、実際にやってみて「こんなにできないものなのだ」と実感することができました。
今回は色々あってせっかく掴めたチャンスだった(表には全く出ていない募集だった)ので、どうしても突破したいと思っていましたが、この分析結果だと、あとは厳しい結果通知を待つだけと言えます。正直、辛いです。
ただ、これだけの収穫がありました。ふり返りを通じてショックを受けた回数は多いですが、違う見方をすると、「次からは回避できること」がこれだけ増えたということ。そして、挑戦権を掴みにいく行動を起こさなければ、そもそもこのお土産(気付き)もなかったということ。この点は素直によかったかなと思っています。
悔しいですが、1回目は勉強代だと思って、この悔しさを次につなげます。
長くなりましたが、校正トライアルのふり返りでした。