ピザカッターはサツマイモを美味しくする!?

皆さんは普段使われますか?ピザカッター。私は最近始めたアルバイトで久しぶりに使いました。これがまたよく切れる!大きなピザ、簡単に分割できます。

画像はこちらからお借りしました


大きなものを分割--その瞬間、最近読んだ資料が頭の中にフラッシュしました。今日はその中に登場する「ピザカッター」をご紹介したいと思います。

頼れるピザカッター 加水分解酵素

そのピザカッターは「加水分解酵素」です。そして、分割するものはピザではなく……「糖」です。

加水分解酵素って何?

【加水分解酵素とは】加水分解の際に触媒として働く酵素の総称。生体内ででんぷんやたんぱく質の加水分解を促進する。エステラーゼ・アミラーゼ・プロテアーゼなどがある。水解酵素。ヒドロラーゼ。

引用:コトバンク

まず、加水分解を思い出してみましょう。加水分解とは反応物が水に反応し分解生成物が得られる反応のことでしたね。岡野の化学に出てきましたよね。エステルが加水分解されると、カルボン酸とアルコールになります。このとき分解される結合はエステル結合(-COO-)です。

また、加水分解の逆反応は脱水反応でしたよね。つまり、カルボン酸とアルコールは脱水反応によってエルテル結合が生じる、ということです。

加水分解酵素は、エステル結合のような脱水反応によって生じた結合の加水分解を触媒する酵素の総称です。

脱水反応による結合はエステル結合の他にペプチド結合グリコシド結合などがあります。

それぞれのピザに適したピザカッターがある

このピザカッター(加水分解酵素)、複数存在するのですが、それぞれ少しずつ形が違います。そして、ピザカッターによって綺麗にカットできるピザも違うのです。

「わたしはチーズピザをカットするのが得意」

「オラはカルビピザを切るのが好きなのさ」

「ぼくはシーフードピザしかカットしないよ」

こんな風に、各酵素には分解を得意とする結合があります。リパーゼという酵素はエステル結合を加水分解し、ペプシンという酵素はペプチド結合を分解します。そして、だ液に含まれることで有名な酵素アミラーゼは、グリコシド結合を加水分解します。

本物のピザカッターなら「どんなピザでもカットしてよ!」と言いたいですが、ここは許してあげましょう(笑)

知名度抜群 アミラーゼ姫

加水分解酵素の中でよく耳にするのが「アミラーゼ」です。だ液に含まれることで知っている人も多いのではないでしょうか。

アミラーゼ姫の得意技は「グリコシド結合」を加水分解することです。グリコシド結合……なんじゃそりゃ?ですよね。実はこれも、普段よく耳にするものに大いに関係しています。それは、「デンプン」です。

【グリコシド結合】グリコシド結合(glycosidic bond)とは、炭水化物(糖)分子と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合である。

引用:Wikipedia

【デンプン】デンプン(澱粉、ラテン語: amylum、英語: starch)とは、分子式(C6H10O5)n の炭水化物(多糖類)で、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子である。

引用:Wikipedia
高分子化合物より

つまり、デンプンは多数のグリコシド結合でできたものなのです。

そのグリコシド結合がバラバラに分解されることで、デンプン内の糖が分解され、ひとつひとつの小さなグルコース(ブドウ糖)になっていきます。こうすることで、体内に吸収されやすくなるのですね。アミラーゼ姫、さすが一軍ピザカッター!アッパレです。

糖には種類があって、分解される前の多数の繋がりでできているものを多糖類といい、これ以上バラバラにできない一番小さな糖を単糖類といいます。デンプンもブドウ糖もよく聞く糖類ですが、デンプンは多糖類、ブドウ糖は単糖類なのですね。

多糖類はエネルギー源として知られています。水には溶けにくく、ほとんど甘みは示しません。

一方で単糖類は甘みがあり、果物に含まれる果糖も単糖類の一種です。

~まとめ~

・脱水反応によって生じる結合には、エステル結合、ペプチド結合、グリコシド結合などがある

・それぞれの結合をカットするとき、加水分解酵素がよい働きをする

・加水分解酵素の中で有名なアミラーゼは、グリコシド結合のカットがお得意。「デンプンを分解したいときは、すぐに私を呼んでね!絶対ね!」

・甘い糖と甘くない糖がある(多糖類は甘くないが単糖類は甘い)

アミラーゼ姫が前に出すぎかもしれませんが……、姫の力を最大限に利用した特許が、過去に鹿児島から出願されているのです。皆さんも知らないうちに口にされているかもしれません。

ピザカッター・アミラーゼ姫、鹿児島でもカットしまくっています!

特許:サツマイモ加工食品およびサツマイモ加工食品の製造方法

特開2014-3957
出願人:鹿児島県
出願日:2012年6月27日
発明の名称:サツマイモ加工食品およびサツマイモ加工食品の製造方法

上記でご紹介したアミラーゼ姫、だ液の中に含まれることで有名ですが、じつは他にも住み家があったのです--それは麹の中。今回はこの「麹」をうまく使った技術になります。

その甘味、加えられた砂糖のおかげ?

コンビニで売っているスイートポテト、和菓子屋で売っている芋きんつば、スーパーで売っているさつまいもジャム……。甘くて美味しい。でもその甘さ、お芋の甘さだけですか?

このようなお芋スイーツは、お店でゼロから作るのは非常に手間がかかり、味にもバラつきが出るため、芋ペーストを仕入れて加工しているものが多いです。

ただ、その芋ペースト、今までは砂糖や甘味料(または酸味料)が添加されているものがスタンダードでした。甘くて美味しいですが、その甘さの多くは添加されたものだったのですね。

もちろん、お家で作るお料理にも砂糖は入れますし、悪いものではありません。しかし、できれば控えめにしたいな……と思いませんか?

その思いに応えたのが、鹿児島県です!

自然のもので、芋本体の甘さを

菓子の材料などに使われる芋ペースト(サツマイモ加工食品)に、甘味料や酸味料に頼らずに、自然な甘みや酸味を付与する。これが今回の特許です。

では、どうやって?

ここで登場するのが、麹の中に住むアミラーゼ姫です。

明細書の内容をかみ砕いて説明します。

【1】製造物

甘みを付与したサツマイモ加工食品 →
酸味を付与した サツマイモ 加工食品→

ここでの付与は「添加」でありませんよ!さて、どんなものなのでしょうか。

【2】想定される使用用途

A:スイートポテトなど甘みだけでよいもの
B:ジャムなど酸味を有するもの

【3】方法

穀物麹を使用して糖化させます。
つまり、添加するものの甘さ(酸味)に頼らず、さつまいも本来の力を生かし、自然な甘み(酸味)を生み出すのです。これが、甘み(酸味)の付与です。

糖化(とうか)とは、植物がエネルギーを貯蔵する目的で作り出したデンプン等の多糖類が分解されて、エネルギーとして活用可能な少糖類・単糖類になる化学反応のこと。化学的には多糖類のグリコシド結合を加水分解することである。酵素による方法と、酸による方法がある

引用:Wikipedia

今回は、麹に含まれる酵素を利用するので、前者ですね。ちなみにこれは酵素糖化法といわれています。

サツマイモを加熱処理して潰したあと、A、Bそれぞれに適した穀類麹を混ぜ合わせ、規定時間放置します。酵素がサツマイモ内のグリコシド結合を加水分解し、糖化が起こります。

多糖が単糖に分解され、自然な甘みが引き出されます。

【4】使用する穀類麹

A:黄米麹(クエン酸含量が低い=甘みに注力!)
B:白米麹(クエン酸含量が低い=酸味も任せて!)
黄米麹、白米麹ともに麹の色が白く、サツマイモの色を変色させません。

しのざき米店より米麹例

【5】製造時のポイント

糖化反応工程のときはそれほど高くない温度(55~65℃)でじっくり(15~24時間)糖化させますが、糖化物を得られた後の加熱殺菌は高温(90~98℃)で短時間(5~15分)処理します。高温にすることで、殺菌と同時に雑多な酵素を失活させることもできます。
要は、アミラーゼ姫とそのお友達、お仕事が終わればもう用済みなわけです。現実の世界はシビアです……

【6】健康面の価値

砂糖や甘味料を使わないという点以外にも、もうひとついいことがあります。
黄米麹を使用するAのサツマイモ加工食品に関しては、 γ-アミノ酪酸の数値が高いことがわかりました。

γ-アミノ酪酸、つまりGABAですね。これも大きな価値になります。

~特許のまとめ~

・麹を使用して、サツマイモ本来の自然な甘さを引き出すことに成功した

・砂糖や甘味料に頼らないため、味覚以外に健康面でもメリットがある

・ここで活躍しているのは麹の中に存在する加水分解酵素(アミラーゼ)

・多糖類が分解されて単糖類になる化学反応「糖化」を利用した技術

この特許をまとめた経緯

この特許を読んだときの気持ちをひと言で表すと、「気になる」でした。

加水分解というキーワードが出てきて、興味を持って読み進めたのですが、想定以上にアッサリした特許でした。「アミラーゼが多く含まれる」「デンプンをブドウ糖に分解して甘くしてくれる」「糖化反応工程で--」などの記述があり、結果として「糖度が高いものが実現しました」という流れで終わりです。(実施データ等はもちろん含まれています)

ですが、「何がどうなって甘くなったの?」「糖化ってそもそも何がどう作用しているの?」「何でアミラーゼなの?」という部分は明細書に記載はなく、そこがすごく引っかかってしまい、調べてノートにまとめました。それが前半部分になります。

いつもならば「だいたい理解できる」程度で次の明細書に進んでいましたが、以前と違っていたのは「少し手を伸ばせば線になりそう」という感覚があった点です。(特許の内容も非常にシンプルなものでしたので、手を出しやすかったです)

既にある知識だけでなく、そこから広げていくという楽しさを味わえました。

講座開始2カ月目。 明細書は数を読むことを意識していますが、 その数はまだ20件に満たず。

読んだ明細書は【概要】【背景にある課題】【解決法】【キーワード】【身近な関連品】を自分の言葉でまとめ、一覧に記載しています。今回は一覧以外に初めてノートを作成しました。

もっと複雑な内容のものでも、さらっとまとめられるようになりたいという願いを込めて、岡野の化学を引き続き頑張ります。

参考WEBページ
マルコメ株式会社HP
糖類(単糖類、二糖類、多糖類)の分類と加水分解
アイキャッチ画像:ニトリネット