サッポロホールディングスが2022年までに国内最軽量となるビール缶に切り替えると発表しました。 本日の一面でも取り上げられていましたね。
サッポロ、最軽量の缶導入へ サントリーも採用/SankeiBiz
軽量化したビール用缶蓋が「第43回木下賞」を受賞/サッポロビール㈱ニュースリリース
この缶はサッポロホールディングス傘下のサッポロビールが大和製罐と共同開発したものです。技術を評価したサントリービールも導入を決定。また、アサヒビールも検討中とのこと。ビールメーカー各社による環境負荷の低減に向けた取り組みが広がっています。
元食品メーカーの立場からこのニュースを斬る
◆アルミ缶の軽量化で実現できること
今回対象となっているのはアルミを使用したビール缶。アルミ使用量削減による軽量化で実現できることはこちら:
1、CO₂削減
2、店頭の運びやすさ改善
3、原料コスト削減
4、物流コスト削減
1、2は「外側」のメリット、3,4は「内側」のメリットです。
環境問題に対応する商品設計はどの業界でも求められています。今回の軽量化で年間1200トンのCO₂削減効果が見込まれます。アルミは生産過程で大量のCO₂を排出するため、軽量化は温暖化対策にもなります。
合わせて、商品1本あたりの使用量が減っているため資材費用も削減できます。これはメーカーにとって貢献度が大きい部分です。
今回のリリースによると1本あたり0.4gの軽量化に成功。サッポロビールの年間出荷数は約10億本。つまりはアルミを40万kg削減できる計算になります。
アルミの市場取引価格はざっと130~150円/Kgです。もちろん、加工度が低い状態からいくつか工程を踏んで製缶としてメーカーに納入されるまでには、おそらく数倍の価格になっているでしょう。仮に上記の価格で計算したとしても、40万kgの量であれば最低でも6000万円相当の原料費削減になります。
さらに、メーカーの大きな負担である「物流費」の削減にも効果があります。物流費はメーカーが契約した物流会社がベースとなる価格を設定し、メーカーがそれを支払うというかたちになります。
その価格は、①商品ケースの大きさ(縦・横・奥行)と②重量がベースとなります。ですので、同じケースサイズ・同じ個数であれば当然ながら軽い方が物流費が安くなるのです。
◆容器軽量化の難しさ
商品単価の高い調味料と違い、消費点数が莫大な数になる飲料。その中で「容器」は商品開発の腕の見せ所になります。
軽量化をするといっても、そこには「強度」という絶対に譲れない壁があるので、0.1g、いや0.01g軽くするのでも、本当に難しいのです。
特に炭酸飲料。
今回のビールもそうですね。炭酸飲料のガス圧ってけっこうなものなので、必要な強度が伴っていない(もしくはかなりのギリギリ)だと、ちょっと落としただけでも破裂してしまうのです。
水やお茶と違って炭酸飲料の容器の扱いに関しては各社かなり神経を遣っています。破損や破裂はお客様の怪我にもつながりますので……。ですので、今回の「0.4g軽くした」という数字を見て、元食品メーカーの私は「おお!すごい!」と感動していました。
◆今回の技術のポイント
今回、軽量化に成功したのは「蓋部分」です。蓋というとキャップを想像されるかもしれませんが、缶では円柱上部の面を全て「蓋」といっています。中身を充填したあと、パカッっと蓋のように被せて巻締めを行うからですね。
今回はその蓋部分に秘密があります。
蓋に「ビート」と言われるへこみをつけて、強度を上げているのです。
ビート??
ビートとは板材の薄肉軽量化の手段のひとつで、板材に凹凸形状を付与して曲げ剛性を高める方法
住友軽金属工業㈱
この技術を蓋に採用したのです。
すごい!ビート!と思われた方、実はビート形状をもつ缶って、かなり昔からあったのです。例えば……
1990年に公開されたこちらの特許。出願人は製缶大手の東洋製罐。完全体にビート形状を採用し、軽量化を実現しています。
特願平02-403348
発明の名称:缶詰用缶
出願人:東洋製罐グループホールディングス株式会社
こちらの特許、1ページ目の図面を見ただけで何の商品かすぐにわかります。

そうです。みなさんお馴染み、こちらの商品ですね。
ビート形状の缶って、実は他にも多数存在しています。こちらもそう。
ではなぜ今回こんなにニュースになっているのでしょうか。
それは、軽量化のためのビート形状が側面ではなく蓋に採用されているためです。
側面だとその形状にブランドイメージが定着してしまうため、企業をまたいで横展開できないのです。しかし、蓋であればブランドイメージ・商品設計をじゃますることなく、各社使用することができます。
ここが既存品との大きな違いです。
今回の技術、特許を探してみたのですが、現時点では出願されていないようです。(サッポロは昨年からこの缶を導入し始めたようなので、出願するのであれば既にしているはずです)
特許が見当たらない理由、恐らくこちらです。
◆特許をとらない理由
環境問題に対応した設計や、誰もが使いやすいユニバーサルデザインなど、「わざと」特許をとらずに業界で広げていこう!という動きがあります。
食品業界で有名な話のひとつがキューピーの「ヒネルキャップ」 。みなさん一度は使ったことあるのではないでしょうか。
ドレッシングを開封するときに取らなければならなかった小さな中蓋。そのときにちょっとだけ飛び散るのが嫌!そんなお客様の声から生まれたこのデザイン。開けやすいだけでなく、開封の際に注ぎ口の中に指を入れないので衛生的で、目の不自由な方でも安心して使用できるという利点もあります。2010年に発売されたとき、かなり革新的で業界でも大注目でした。
キユーピーはこの設計を開発した際、ドレッシングカテゴリの中でかなりの差別化になるにもかかわらず、「他メーカーも是非まねしてください。この技術がどんどん広がって、皆が使いやすい商品がもっともっと増えればいい」という理由から、特許を取らなかったのです。
これ、食品業界ではそこそこ有名なエピソードです。キユーピーさん、かっこいい!
私の推測ではありますが、今回の最軽量アルミ缶がメーカーをまたいで広がっている流れを見ると、サッポロ側も「自社で特許を保有する」ということを選択していないことがわかります。
環境への取り組みは各社協業で。素晴らしいですね。
こうやって日本中に、そして世界中に、環境を考えた商品がどんどん広がればいいですね!
※アイキャッチの画像はこちら(サッポロビール北海道工場)からいただきました