この記事では、私が普段から実施している「朝の儀式」をご紹介しています。
言うなれば、「翻訳者としての一日を始めるためのストレッチ」のようなものです。
自分にとっては当たり前になりすぎて、何も意識せず続けているものなのですが……。先日、こんなことがあってブログでシェアしようと思いました。
◆◆◆少し前のできごと◆◆◆
実家に帰省したときに、久しぶりに大学時代の友人数人と飲みに行ったときのこと。
5人集まったのは本当に久しぶり。30代後半の私たち、子どもがいたりいなかったり、結婚していたり独身だったり、新卒からの会社一筋で働いている人もいれば、転職して新たな道を切り開いていたり、はたまた士業の資格をとってシフトチェンジしたり。
皆それぞれの道を進んでいるのですが、けっこうな行動派ばかりで、それぞれに仕事を持ち自立しているのは昔から変わりません。いつも刺激をもらえます。
友人A「ところでKaoって、今何やってんだっけ?」
友人B「たしか中国語で何かやってるんでしょ?」
ひょんなことからこんな会話になりました。
私「在宅フリーランスで特許翻訳者やってるよ。理系の勉強めっちゃ苦労したわ」
全員「えぇぇーーーーーー!!!」
全員がびっくり。
私はてっきり「理系の知識がついている」ということに驚いてくれたのかなと思ったのですが……(私たち皆同じ大学、同じ学部で、もろ文系なので)
友人A「在宅でやってんの!?私絶対むり!」
友人C「私も!2時間に1回ぐらい昼寝してしまうわ」
友人B「お菓子とか食べてしまわん??」
友人A「化粧しなかったらスイッチ入らなくない?」
友人D「そもそも出勤ないのに目が覚めるの?朝ちゃんと起きられるの?」
……そ、そこ!??
と笑ってしまいましたが。
理系の勉強をしたことなんて、ましてや特許なんてだーれも興味がない!(笑)
在宅という働き方について、全員が口を揃えて言ったこと――
「家でやる気わくの!??」
そういえば、フリーランスや在宅という形で働いているのは私だけでした。
そして、一人がこう続けました。
「Kaoは在宅に向いてるんだよ。すごいよ。私は絶対むりだわ」
私はこの言葉を聞いた瞬間、「とんでもない!!」
在宅に向ているというのは大きな勘違い!これは事実。
けど……、だからこそいくつか「工夫」していることはあるよ、と伝えました。
ということで、今日は私が普段から実施している「朝の儀式」をご紹介します。
上にも書きましたが、「翻訳者としての一日を始めるためのストレッチ」のような役割になっています。自分の頭や体の中にいくつものスイッチがあって、そのスイッチを「パチッ」「パチッ」とひとつずつオンにしていくようなものですね。

スイッチは全部で3つあります。
- 体のスイッチ
- 日本語のスイッチ
- 中国語のスイッチ
です。
それぞれ非常にシンプルな内容なので、どなたでも気軽に行っていただけます。
~すべての始まりストレッチ~
朝は割と早起きですが、スパッと目覚められるタイプではありません。どちらかというとベッドでうとうとするのが気持ちよくて好きなタイプです。気を緩めるとすぐに二度寝してしまうのがわかっているので、目がうっすら覚めたときに『ベッドの朝イチ・ストレッチ』を始めます。
◆額をベッドに付けて背中と肩をぐーっと伸ばします

これはヨガでいう「チャイルドのポーズ」です。
首・肩・背中がぐーっと伸びるのがわかります。その間、顔はベッドに押し付けているので目は閉じていますが、眼球をぐーるぐーると上下左右に回しています。
目ん玉を動かすとちょっとずつ目が覚めてきます。
時間にして10~20秒ほどです。
◆そのまま左手を動かし、右手の下をくぐらせ体をねじります
同時に、右手を天に向って上げます。

これはヨガでいう「猫ねじりのポーズ」です。
右手を天に向かって上げたあとは、自分の頭の方向に伸ばしながらゆっくり下ろします。

このとき、できるだけゆっくり動かし、体から離れた場所を手のひらが通るように大きく動作します。
これを10回繰り返します。
終わったら、反対側もやります。
今度は左手を動かします。

先程と同じように、左手を頭の方向に下ろして、上げてを10回繰り返します。
まだベッドの上です。ちょっとずつ目が覚めてきます。
◆両腕で支えて前側を伸ばします

これはヨガでいう「コブラのポーズ」です。
コツは、肩に力を入れないこと。肩を耳から遠くに置くイメージで、力を抜いていきます。そして限界まで上を向きます。首の前の皮をぐーっと伸ばすイメージです。
5~10秒ぐらい伸ばしています。
◆そのまま上半身をねじって、足先を見ます

コツは、肩が上がってこないように意識して、上半身全体をねじります。
左側にねじっているときは右足の先を、右側にねじっているときは左足の先を、要は「遠くの方の足先」を見るようにすると、ぐっとねじりが深まります。
左側に5秒ほどねじったら、一旦「チャイルドのポーズ」でリセットして、次は右側に5秒ほどねじります
◆首と股関節をほぐします

ここはストレッチの仕上げにさっと終わらせます。
5秒ぐらいです。
『ベッドの朝イチ・ストレッチ』は以上です。
時間にして2~3分です。
これが終わる頃には「よし。ベッドから出るか」という気持ちが芽生えています。私の一日はここから始まります。
ベッドから出て顔を洗い、水を飲んで、軽く朝の勉強をする、朝食をつくる、お弁当をつくるなどが続きます。
朝食を食べる前に、本格的に「スイッチ」を入れる作業に入ります。
まずは外に出て新聞を取りにいきます。ここではあえて階段を使い、足を動かします。肌寒いけど心地よい外の空気を吸うと、一気に目が覚めますね。
【スイッチ1】体のスイッチを入れる

朝食をお腹に入れる前に「体のスイッチ」を入れます。
具体的には筋トレをします。
フローリングではなくラグが敷いてある部屋にいき、腹筋・背筋を各50回、腕立て・逆腕立てを各20回やります。
この筋トレは夜にやっていた時期もありますが、ここ数年は朝にやっています。
ちなみに逆腕立てとはこういう感じです。

この筋トレをやっている最中に、体の中にばーっと血が巡っていくのがわかります。体が完全に起きるのがわかります。
運動するとアドレナリンが出るので、無料で押せるやる気スイッチのようなものです。回数は少なくてもよいので、騙されたと思ってやってみてください。
この筋トレが終わった後に朝食を食べます。食べてから筋トレすると「おぇっ」となるので朝食の前に実施しています。
なぜこれを一番初めにやるかというと、
脳みそも体の一部だから。
先にその「体」が稼働するようにスイッチを入れて、脳みそまでのガソリン(血液)の流れをよくします。まずは母体の大きな方にエンジンをかけていきます。
【スイッチ2】日本語のスイッチを入れる

朝食はしっかり食べます。その後、日経新聞を読みます。(食べ終わってから読もうと思うのですが、いつも食べ終わる前に同時並行で1ページ目を広げてしまいます……。よくないですね。)
最初、コラム(日経の場合は「春秋」)を読みます。このときに、声に出して読む、語尾をですます調に変換して読む、ということをしています。
これはどこかの翻訳会社サイトか書籍で「翻訳者がやっていること」として目にしたことなのですが、すみません、どうしても思い出せません……。
コラム音読が終わった後は、普通に読んでいきます。
気になった記事は切り取って、ポイントとなる部分には蛍光黄色のマーカーを引いています。美しい言い回しや面白い表現もマーカーを引いて残しています。
新聞の中身すべてを読んでいるわけではありませんが、できる限り本文に目を通しています。
朝、「日本語の基本」である新聞を前のめりになって読むことで、私の日本語スイッチが入ります。
日本人だからといって、日本語を読むときにエネルギーはいらないということはないと思います。活字を通して新しい言葉や少し難しい内容などに触れることは、少なからず「負荷」がかかります。その「負荷」がある意味、心地よくもあります。準備運動には丁度よい素材です。
新聞は言葉のプロが書いているので「正しい日本語」であることも嬉しいところです。質のよい日本語のシャワーを毎日一定時間浴びることは、翻訳のお仕事にも大いに貢献していると感じています。
それが「専門書」や「ハイレベルな材料」でなくてもよいのです。一番身近な新聞をしっかりと丁寧に読み込み、自分の中に取り込んでいくことは、誰でもできる一番簡単な「日本語ストレッチ」だと思っています。
割と時間をかけて、30~40分ほど新聞と向き合っています。もちろん情報収集も兼ねています。新しい分野の展示会やセミナーに参加したあとは、切り取っている記事の傾向が変わっているのがわかります。
【スイッチ3】中国語のスイッチを入れる

日経新聞を読み込んだ後は、中国語ニュースに目を通します。
こちらは毎朝配信される、中国人向けのものです。
中国国内トップニュース、国際、社会、経済、文化などのカテゴリに分かれて、テキストと写真で構成されています。
文字数は3000文字程度です。
それを声に出して、さも舞台に立って発表しているような感じで音読していきます。もちろん内容も頭で理解しながら進めます。
恥ずかしいですが、リビングを歩き回りながら、自分のことをジョブズだと思って(ジョブズファンに怒られるな……汗) 熱を込めて、かつリズミカルにスピーチしています。
固有名詞など、特殊なものの発音がわからない場合はスルーして進みます。
文法や係り受けが明確でなくつまってしまったものは、文章構造がはっきりするまで立ち止まって考えます。
なぜ音で読むかというと、中国語は漢字なので「読めている錯覚」に陥ることがたまにあります。そこで音にして自分の耳に聞かせます。
もうひとつ、中国語は私の中に「音で刻まれている」部分が大きく、発音を口から出すことで脳の中の「中国語ゾーン」が刺激され、一気に中国語モードになるのです。
自分の中の「中国語スイッチ」が入るのがわかります。
この「中国語スイッチ」に費やす時間は15分程度です。そんなに長くないですよね。
中国の一次情報を収集するという目的も兼ねています。
私の「体スイッチ」「日本語スイッチ」「中国語スイッチ」のご紹介はここまでです。
この3つのスイッチを入れ終わった後、自分の机に移動して翻訳のお仕事をスタートさせます。
逆に言うと、私の場合はこの3つのスイッチを入れずに翻訳をやれというのも難しいですし(できるとは思いますが、本調子ではないでしょう)、翻訳以前に、景色の変わらない家の中で「在宅仕事」をするのが難しくなると思います。
副次的効果

嬉しいことに、副次的効果もあります。
- 肩こり・腰痛が今のところない
座りっぱなしなのでいつかは腰痛になりそう…… なんてかなり前から思っていますが、短い時間でも毎日ストレッチ&筋トレをしているためか、腰痛・肩こりともに今のところありません。目覚めのためにやっていることですが、体のメンテナンスとしても貢献してくれています。
- その日の調子がわかる
毎日同じ時間に同じことを同じ量だけやる。これを毎日繰り返していると「あれ、今日ちょっと調子悪いな」というのがわかるようになります。「中国語のリズムがのってこないな」と微妙な差に気が付くこともあり、そんなときは昼間に違う読み物(中国語)を少しだけ読んだりします。
また、筋トレでは体に疲れが溜まっているとなんとなくわかります。そんな日は少しだけ早めに切り上げて、ゆっくりお風呂につかるようにしています。
以上、私がやっている朝の儀式3ステップでした!
たった3ステップ、されど3ステップ。
こういった地味な工夫で、こんな私でもなんとか在宅翻訳者として活動できているのです!(笑)
同じように在宅でお仕事をされている方の参考になれば幸いです。
おすすめ書籍
今回は私の工夫をシェアしましたが、翻訳者の日々の工夫や習慣づくりについて、こちらの本には一流翻訳者が実施する方法が多数掲載されています。
【おすすめ書籍】翻訳というおしごと/実川元子著
日々の生活にどうやって翻訳作業(または翻訳に関わる学習)を組み込んでいくのか、子育てとどう両立するのかなど、リアルな声とともに具体的に書かれていて、非情に参考になるものばかりです。
登場する翻訳者さんの取り扱い言語中国語ではなく英語ですが、「なるほど」と感じることが多く、どの言語の翻訳者にも共通するヒントを与えてくれます。
在宅ワークの難しさや翻訳者になるまでの経緯などもわかりやすく書かれていますので、「翻訳者」になりたいなと思っている方は、ぜひ一度手にとってみてください。
ゆっくり読んでも3時間ぐらいで読み終わる本です。