フリーランス翻訳者の応募条件のひとつに「経験年数」がある。それについてずっと思うことがあったので、今回記事にしてみたいと思う。
最初にお伝えしたいこと。このやり方だけが正しいとは思っていないし誰かに強要するつもりもない。あくまで「私個人の考え」であることを理解しながら読んでいただけると嬉しい。
今回の翻訳祭で試してみたいことがあった。
それは、面と面で越えられる壁の高さについて。そしてそれに対する自分の考えがどうなのかという点について。
だいぶ抽象的な表現になってしまったが、具体的に書くとこうだ。
公式WEBページのエントリー画面に「応募条件 翻訳経験3年以上」「実務経験5年以上」と記載がある企業。普通であれば「経験年数」が満たない翻訳者は応募NGだが、そこを担当者に「公式了承」いただけるか、ということ。
私が中国語の勉強を始めたのは2015年。環境にも恵まれて、深く、濃く中国語と「お付き合い」することができた。
2018年からフリーランス翻訳者としてスタートし、現在2年目。当然、足切り水準以下の経験年数しかない。もっと言うと、前職も翻訳関係ではない。
普通に見ると明らかな基準外でアウト。エントリーの資格はなく。無理にCVを送りつけてもゴミ箱行きだろう。
トライアル挑戦権を手にすることができないと、その会社からの仕事獲得のチャンスも当然ながらゼロ。
では、どうするのか?方法は2つある。
方法1:嘘の経歴を書く
方法2:別の道を「自分で」つくる
方法1【嘘の経歴を書く】について
倫理的な問題は一旦置いておいて、方法としては使えるのが現実。CVを書き換えればよいだけの話。5~6年翻訳経験があるように書き換えたり、自分は到底訳すことのできない「イケてる」翻訳実績を足し込んだり。
誤解を恐れずに言うが、CV含めて自分で自分をアピールするときにある程度の「パフォーマンス」は必要だと思っている。魅力ある人材だと思ってもらうために、「見せ方」の技術は要る。これは翻訳業界に限ったことではない。
例えば、過去に翻訳会社で働いていて社内翻訳を担当していた。本当は社内評価イマイチなイマイチ翻訳者だったとする。しかし「バリバリやっていました!」とアピールすることはぶっちゃけありだと思う。
でも、私の経歴のようにその「土台」が全く無い場合もある。まあそれはそれで違った見せ方で、違った魅力を伝えることもできると思う。
しかし、
嘘は絶対にやめた方がいい。これは、相手に失礼とか常識的な問題とかたくさんの理由があるが、一番は「自分のため」だと思っている。
嘘をつくと、自分の中でつじつまが合わなくなるときが後々絶対にやってくる。
そして、自分で自分の首を締めることになる。
嘘は自分が知らないところで、自分が思っているよりも自分の未来を蝕み、そしてじわじわと自分を苦しめる。
仮にトライアルを突破できたとしても、合格という「ゴール」にたどり着いたのではなく、その翻訳会社とのお付き合いが「スタート」したということ。
嘘を抱えたお付き合いは絶対にいつか破綻すると私は思っている。
男女の関係も結局のところそんなことが多い。
入り口って、案外大事だと思う。
方法2【別の道を「自分で」つくる】について
こういうときこそ人と人、面と面のパワーじゃないかと考える。
正直言って、嘘を書きたくなる気持ちはわかる。経歴や実績を振り返って、自分って何にもないじゃん……って悲しい気持ちになったことは何度かある。
でも、実際に嘘を書くという選択肢は私にはなかった。
理由は2つ。
まず、経験年数に対する考え方。
経験年数にラインを設けている場合、その本質は「いつからやっているか」ではなく「今の実力はどうなのか」だから。この「今の実力」を推測するための有力な材料のひとつが「経験年数」だから。やはり実力が大事なのだ。
次に、長い目で見たときに自分にとって不都合な要素になり得ると思ったから。
私は中国語に触れてからのいわゆる「中国語歴」が短い。前職も語学系の仕事ではない。経歴的には間違いなく弱みだ。
しかし、その弱みを利用して「中国語スタートが遅くてもここまでいけます」という書籍もしくはコンテンツを将来的に出そうと思っている。その先の広げ方もちょっとばかり考えている。(これは前職の経験も生かすことができる)
詳細はここでは書かないが、今この時点で自分の経歴・実績を塗り替えると、後々このコンセプトが成り立たなくなる。目先のことだけを考えるのではなく長い目で見たときに、自分のプランの中に「ズレ」が生じる。(まあそのためには稼げている「想定」を早いところ「事実」にする必要があるが。目下、取り組み中)
もちろん、倫理的なことは大前提としてある。人間誰しも自分のことを「嘘つき」にはしたくない。
これらの理由から考えたのが、「面と面」で結果を変えてみようということ。
これもある種の商談になるのかな?
真っ直ぐに相手と向き合って、しばらく話して、キャッチボールをしながら自分という人間(プラス今の実力)を見てもらう。少し期待を持ってもらっている?と感じたときに、正直に伝えてみる。「実はWEBページを見たのですが、御社規定の経験年数には残念ながら足りていません。でも是非トライさせていただきたい」
「ルールなのでダメです」「うちは無理です」そう言われても文句は一切なかった。
けれど、結果として了承していただけた。
せっかくブースに来たしという社交辞令もあったのかもしれない。けれど、短いなりにも対話をした後だと「大丈夫ですよ」と返事を頂いたり、「○年以上しかエントリーできない仕組みになっているので、備考欄に私の名前入れといてください」と言ってくださった方も。
もちろん、本当の実力評価はその後だ。あくまで「挑戦」に対する許可を得ただけの話。
こう書くと「直接言えば意外といけんじゃねーの」なんて思う人もいるかもしれない。けれど、この5分の会話に私の頭はフル回転だったし、その場でできることを120%でやったし、事前準備も当然した。細かいことは書かないが、ただ何も考えず「年数足りないんですけどいいですかー」なんて会話はしていない。そんな感じで臨めば翻訳会社もアホじゃないしやんわり断ると思う。私だったらそうする。
ここで私が言いたいのは、「頑張って説得しましょう」ということではない。
自分の条件では不利だったり明らかに無理だからといって、簡単に諦めたり、簡単に嘘をついたり、「簡単」な方にアッサリ逃げることをするべきではないということ。
楽な方に行きたい気持ちはわかる。私も人間だし。
けれど、そういうときこそ「だったら自分には何ができるか」「真正面が無理なら他にどんな方法があるか」「お互いのメリットになるにはどう動くべきなのか」について思考を巡らせる。
悩みながら、自分の軸を持ち、道を見つけて、勇気を持ってそこにぶつかっていくべきなんじゃないかな。これはプロとして最低限やるべきことなんじゃないかな。
もちろん、翻訳業界に関わらず、どの業界でも。
これもある種の営業なんだと思う。
営業って売上を上げるたけが仕事ではない。普通に放っておくとマイナス状態のもの(道がない・弱み・デメリット)であっても、人と人、面と面の場を持つことででプラスに変える、変える働きかけをする。これも立派な営業力であり、フリーランスとしてはやっていかないといけないことだと思う。
結果はうまくいくときもあれば、いかないときもある。そのときにまた考えればよいだけの話。自分に嘘をついていなければ、また新しい考えが巡ってくる。
今回はたまたま翻訳祭というリアルな対話ができるタイミングだったので、そのタイミングで自分の考えをある意味「試す」ことができた。(もちろん、なんとかお役立ちできるぞ!と感じるレベルまで自分の実力をあげてから、というのは言うまでもない。一年前の翻訳祭だったら絶対に無理だった)
自分で道をつくっていくこと
なんていうと大袈裟だが……
人によってやり方はそれぞれだと思う。だから正解はないと思う。
今回の話、何を甘っちょろいこと言っているのだと思われるかもしれない。バカ正直と笑われるかもしれない。まだ現実を知らないからと言われるかもしれない。
一応は営業職を11年やってきた。色々な局面で「上手にやること」も必要というのは知っている。利害関係があるのは当然だし、突破しなければいけない壁があるのもわかっている。
けれど、私はやっぱり自分がやっていることに誇りを持てる生き方をしていきたい。自分に自信がなければ、自信につながる「事実」をコツコツ積み上げていけばいいだけだと思う。魔法なんてないし、しんどいけれど、それしかやり方はないのだと思う。
とてつもなく長い独り言にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ということで、やるべきことはただひとつ。実力アップ。
そして、今回せっかくいただいたチャンスを目に見える結果につなげること!